読書のかけら

個人的な読書備忘録。あらすじ(Bookデーターより)と少し感想を書いてます。

「掏摸」中村文則著

お前は、運命を信じるか?東京を仕事場にする天才スリ師。彼のターゲットはわかりやすい裕福者たち。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて一度だけ、仕事を共にしたことのある、闇社会に生きる男。木崎はある仕事を依頼してきた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。もし逃げれば…最近、お前が親しくしている子供を殺す」その瞬間、木崎は彼にとって、絶対的な運命の支配者となった。悪の快感に溺れた芥川賞作家が、圧倒的な緊迫感とディティールで描く、著者最高傑作にして驚愕の話題作

 【感想】

久々に一気読みした。ドフトエフスキー的なハードボイルド文芸作品

天才スリ師である主人公に罪の意識はなく、スリという行為は彼の生活であると同時に芸術でもある。臨場感あふれるスリの描写はまるでスローモーションを見ているようで引き込まれる。

幼少よりつきまとう塔のイメージ、関わりを拒めない母子、そして「絶対的な悪」として主人公の人生を支配し殺そうとする矢崎。

著者はあとがきでこの本を書く前に旧約聖書を読んだと書いている。ユダヤ人を力で支配するヤハウェに矢崎を重ねている。

クリスチャンとしては心外であるが、このように聖書の神を理解する人もいるのだろう。

姉妹作品の「王国」も読んでみたい。

 

掏摸(スリ) (河出文庫)