「限界集落株式会社」 黒野伸一著
「苦役列車」西村賢太著
劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は―。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。
「掏摸」中村文則著
お前は、運命を信じるか?東京を仕事場にする天才スリ師。彼のターゲットはわかりやすい裕福者たち。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて一度だけ、仕事を共にしたことのある、闇社会に生きる男。木崎はある仕事を依頼してきた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。もし逃げれば…最近、お前が親しくしている子供を殺す」その瞬間、木崎は彼にとって、絶対的な運命の支配者となった。悪の快感に溺れた芥川賞作家が、圧倒的な緊迫感とディティールで描く、著者最高傑作にして驚愕の話題作
【感想】
久々に一気読みした。ドフトエフスキー的なハードボイルド文芸作品
天才スリ師である主人公に罪の意識はなく、スリという行為は彼の生活であると同時に芸術でもある。臨場感あふれるスリの描写はまるでスローモーションを見ているようで引き込まれる。
幼少よりつきまとう塔のイメージ、関わりを拒めない母子、そして「絶対的な悪」として主人公の人生を支配し殺そうとする矢崎。
著者はあとがきでこの本を書く前に旧約聖書を読んだと書いている。ユダヤ人を力で支配するヤハウェに矢崎を重ねている。
クリスチャンとしては心外であるが、このように聖書の神を理解する人もいるのだろう。
姉妹作品の「王国」も読んでみたい。
「鷺と雪」北村薫著
昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ“ベッキーさん”シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。
【感想】
はじめての北村薫の本。
昭和初期の上流階級を舞台に、日常の謎を華族の令嬢英子が運転手別宮みちこ(ベッキーさん)の知恵をかりて解決し成長するミステリー。
著者が当時の文学や古典芸能に詳しいことが格調を高め、上品なユーモアと語彙豊かな美しい文章が素晴らしい。
タイトルでもあり最終話でもある「鷺と雪」のラストがとても印象的だった。能、鷺、雪、226事件、戦争へと向かう時代の不穏を静かに悲しく描く。
シリーズ読んでみたくなった。
「パンク侍、斬られて候」 町田康著
江戸時代、ある晴天の日、街道沿いの茶店に腰かけていた浪人は、そこにいた、盲目の娘を連れた巡礼の老人を、抜く手も見せずに太刀を振りかざし、ずば、と切り捨てた。居合わせた藩士に理由を問われたその浪人・掛十之進は、かの老人が「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言うのだった…。圧倒的な才能で描かれる諧謔と風刺に満ちた傑作時代小説。
【感想】
著者が独特な文章を創造する才能豊かな作家であることは間違いないと思う。全体に流れる笑い、後半のSFまがいの荒唐無稽さや残虐カオスには著者の狂気すら感じる。読後感はあまりよろしくないが。。。
「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著
「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。
【感想】
古都を舞台に「黒髪の乙女」の天然ぷりと「先輩」の妄想炸裂の語り口!
文語調の遊びごごろに満ちた文体、おバカで奇想な展開は好き嫌いが分かれるでしょうね、わたしは楽しめました。
これは漫画にしたら面白いだろうなと思っていたらすでにあるんですね(笑)