「海と毒薬」遠藤周作著
生きたままの人間を解剖する――戦争末期、九州大学附属病院で実際に起こった米軍捕虜に対する残虐行為に参加したのは、医学部助手の小心な青年だった。彼に人間としての良心はなかったのか? 神を持たない日本人にとっての<罪の意識><倫理>とはなにかを根源的に問いかける不朽の長編
【感想】
海は戦中の不穏さと、登場人物達の心象として終始重苦しく描かれる。生体実験を特異な事件としてではなく日常の延長にある狂気として描かれ、読者にあなたならどうしただろうか?と問いかけきます。
「サラバ!」上下巻 西加奈子著
一家離散。親友の意外な行動。恋人の裏切り。自我の完全崩壊。
ひとりの男の人生は、やがて誰も見たことのない急カーブを描いて、地に堕ちていく。
絶望のただ中で、宙吊りにされた男は、衝き動かされるように彼の地へ飛んだ。
第152回直木賞受賞作
【感想】
上下巻を一気に読んだ、ぐいぐいと読ませるスケールが大きな力強い作品。著者のバックグラウンドでもあるイラン、エジプト、大阪、東京を舞台に家族、友情、宗教に翻弄され生きてきた主人公が最後に自らの信じるものを見いだす物語。
「信じるとは?生き続ける意味とは?」がテーマであると思えた。後半、主人公の姉が語る「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」が心に残る。
「流」東山彰良著
何者でもなかった。ゆえに自由だった――。1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父。なぜ?誰が? 無軌道に生きる17歳のわたしには、まだその意味はわからなかった。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡。満票決着「20年に一度の傑作!」(北方謙三氏)。第153回直木賞受賞作。
【感想】
本文中にこんな場面がある。
【私が青島の街並みを眺めながら感じていたのは、よく書けている青春小説を読んだときのような懐かしさだった。縁もゆかりもない他人の物語に自分の少年時代を投影し、はじめてとおる通街に個人的なもう苦い思い出を見つけ、風の中にキラキラ光っているはずの夢や情熱に目を細めながら、私は自分に魔法かけていた。そう、私の人生はこの大地に根ざしているのだと言うの魔法を。】
まさにこの小説は異国が舞台なのに読者を感情移入しさせノスタルジーを感じさせる作品。そして後半の展開は…